昨日、今日と二日間かけて
ライブ用機材の見直しと
音色の再設定を行う。
「家カフェTerrace」のレコーディングを通して
新しい実験を繰り返してきてことで耳が鋭くなり、
以前の良い音の認識が変化してきたことで
ライブの音色も補正しなくてはならなくなった。
たぶん年に1回くらいはこの作業をしている。
毎年自分の耳が良くなり、感性が高まってゆくことを
実感できるのはいいことだと思う。
今回チェックしたのは以下のポイント。
(1) Direct Box使用の有無
(2) EQ
(3) Compression
(4) Reverb
(5) Reverbに対するEQ
(6) Limitting
(7) Mix
(8) Ear Monitorの音量チェック
(9) Ear MonitorのEQ
ちなみにAcousphereのライブ用の機材は
・Mac Book Air 1.6GHz
・Fast Track Ultra
・Logic Pro
となる。
まずDirect Box。
これはサウンドインターフェースと
ギターとのマッチングを見直すために
導入しようか検討したもの。
しかしながら実験過程でS/Nの改善も見られず
高音と低音の消失、Compression感があったため
採用とは至らなかった。
最近のSIはアクティブ回路のギターなら
しっかり受け止められるようだ。
つぎにEQ。
これは全面見直しとなった。
まずOpera(ギター)の音色のフラット化。
いくつかの周波数カットでおおよそフラットに。
その後積極的にEQをはかる。
Low Filterを若干使い、低音のプッシュ感を
最低限にしたことでどこまでも分離する
整理されたサウンドになった。
L-5はOperaとは逆にフラット化のEQは
ほとんどしないで済んだ。
これは徹底したボディ内部の詰め物による
楽器のフラット化による功績が大きい。
(つづく)::::
L-5のEQでとりわけ困難だったのが
50Hzあたりのプッシュ感のトリートメント。
残しすぎるとSubがボフボフしてベースの
音程感が曖昧になる。
カットすれば聞きやすいベースだがつまらない。
コード、ベース、タッピングとくるくる回して弾きながら
全部を同じ音量感にまとめた。
このやりかたが非常にうまくいった。
300Hzあたりを広めにカットしただけで
高音も前に出てくる。
やはりEQの基本はカットに有り。
さてCompression。
以前はOpera、L-5ともに最終段で
Total Compをかけていた。
音を安全に運用する目的と
音色の質感を整える為だ。
でも今回からはそれぞれ別個にかけることにした。
別個にかけることでCompは2台稼働。
Macに対する負担は大きくなるが、
この実験の後に様子を見てから新しいMac Bookを購入予定。
なので負担は気にせず思う存分やる。
実際Mac Book Airはすでに処理が追いつかず、
Compふたつの時点でDigital Noiseの「プチっ」
という音が数回聞こえるようになる。
Operaはナイロン弦なので弦の音量にばらつきが多い。
ゆえにCompとの相性は抜群だ。
Optoのパラメーターを使用し-12.5dbのスレッショルドに。
L-5はCompの必要なくバランスが良い。
自然な引き心地を重視してCompなしとする。
(つづく)::::
Reverbの設定は簡単だった。
要はどうしたいのかハッキリとさせ
コンセプトをもっておくことだろう。
ギターのエフェクターと考えて
積極的に使う人もいるが、
僕の場合Reverbは「空間のシミュレート」
と考えている。
楽器の音をできるだけドライにそのまま届け、
その後ろにうっすらと空間の反響音が響く。
ナチュラルなリバーブ感が大事だ。
今回はSpace Designerを使い、
Dry=0 Wet=-8db Reverb Time=1.4mmsec
と設定した。
そしてベースにリバーブがかからないように
EQはLow Filterを150Hzから大胆にかける。
Highもうるさく聞こえるので4kHzあたりから上を
High Filterでカットする。
教会やライブハウスという感じの響きからは遠く、
スタジオっぽい雰囲気にまとまった。
この状態ならどういったVenueに持込んでも
いい形で響いてくれるだろう。
そしてLimitting。
前回まではCompをリミッター代わりに使っていたが
ナチュラル感を活かす為にLimitterに変更。
非常にナチュラルな音色のままボリュームのコントロールに成功。
S/Nの悪化もみられなかった。
この辺がアナログ回線との大きな差になっている。
やはりデジタルは音が良い。
(つづく)::::
Mixはふたつのギターの音量バランス。
タイプの違う何曲かを弾いて設定した。
バラードとJazz、Funkなど全てにおいて
同じようにはもちろんならないので平均値だ。
あとは演奏時に手元のボリュームノブで調整する。
さて、ここまでしっかり作れば
あとはイヤホンで聞いてもいい感じになる。
と、思いたいがそうはいかない。
イヤホン毎に相当癖があるのでイヤホンにあわせて
EQを行わなくてはならない。
ここまでの音作りはMeyer SoundのUPM-1Pと
Rolandのサブウーファーを参照してきた。
これが模擬のライブハウスシステムと考えてほしい。
使ってるイヤモニはSHUREのE-5C。
2Wayタイプなので低音再生もスゴいが、
ゆえに音圧がありすぎて耳が痛くなる。
今回はバッチリLow Filterをかけて
耳を守るような音色にセットしてゆく。
また300Hz、500Hzも出過ぎているので10db近くカット。
そういえばイヤモニがFeed Back起こすという事実を
知っている人はいるのだろうか?
ちゃんと補正してフラットになっていないと
耳の中でFeed Backする。
その結果、音程が聞き取りにくくなるという現象が起きる。
メインの周波数よりも低い周波数が強いと
音程が全音Roll Downして聞こえる。
逆にメインよりも高い周波数が強いとRoll Upする。
音が全音高く聞こえる。
とくに5弦のFの音に顕著に出る。
イヤモニで音程がわからないと大変だ。
ボーカリストなら音程がとれなくなり下手になる。
ギタリストならば弾くフレットがわからなくなる。
昨今テレビでミュージシャンがうまく歌えないという
現象がネットをにぎわしているが、
イヤモニが現場に浸透したものの、
それを正しく扱えるエンジニアの不足、
インイヤーモニターの正しい運用への知識不足が
ミュージシャンのパフォーマンス低下を促しているかもしれない。
重ねて書いておくがPink NoiseやCDをリファレンスしても
エンジニアではこの問題とは直面できない。
あくまでもミュージシャンにしか気づけない問題だからだ。
微妙なEQを繰り返し、すべての音程のRoll Downを解消するまで
1時間強のかかった。
一番骨の折れる作業だったが、イヤモニの種類を
変える毎にこの作業はやってくる。
センサフォニックが届いたらまたやらなくては...。
(つづく)::::
こうして書いてみると
ライブを最良の状態でのぞめるようにするのに
なんと膨大で繊細な作業が必要なんだろうか。
普通のライブの現場ではこれらの作業を
短時間のリハーサルの中で行うのだから
イヤモニでモニター環境を持込むシステムにくらべ
クオリティに大きな差が出るのはやむを得ない。
しかしモニター環境の精緻さによって
演奏のやりやすさ、クオリティが決まることを思えば、
すべての音楽家が自分専用のイヤモニのシステムを
いずれ持つ事時代がやってくるだろう。
しかしながらイヤモニの普及には
まだまだたくさんの問題点がある。
以下にあげておく。
(1) 運用の難しさ、専門知識
(2) 価格
(3) 必然性
運用については高度な専門知識に加え
鋭い耳が必要になってくる。
またエンジニア的なフィードバックしない
フラットな音作りといった平均的なエンジニアリングではなく
コンセプト、哲学をもった音作りも求められる。
例えば「低音のプッシュ感は耳を保護する為にあえてカットする」
などといった具合だ。
より踏み込んだ、積極的なサウンド・デザインが必要だ。
価格はまだまだリーズナブルではない。
しかしながらこのクオリティの製品なら
フェアトレードといえる価格だと思う。
あとは個々のミュージシャンがどう考えるかだ。
そこで大事なのが必然性。
イヤモニのシステムが必要だと考えるかどうかだ。
イヤモニはなくてもある程度のモニター環境は
現在のステージ音響でもできる。
それはレイテンシーに悩まされる旧態依然とした環境ではあっても
いままでのスタンダードではあるし、
それに異を唱える感性の持ち主も少ないだろう。
なぜならイヤモニを使用しないからだ。
そのくらい劇的にイヤモニのモニタリングは違う。
違いすぎてとまどうことの方が多いので、
よほどの必然性を自分の中にもって挑まないと
イヤモニ環境の採用から逃避してしまうだろう。
また某有名女性ボーカリストのように
自分の判断で片耳だけでイヤモニを使っていたりすると
左右の耳のゲインと空気圧の差によって
難聴を引き起こすのも周知の事実だ。
現実に彼女達は難聴という病気を発症し、
アーティスト生命が危ぶまれている。
この事故を未然に防げなかったのは
周りにいるサウンドエンジニアの無知によるものだ。
片耳でモニターをしてるボーカリストは
それが如何に危険なことかを覚えておいてもらいたい。
両耳でのモニタリングの徹底、もしくは
イヤモニを安易に使わず、昔ながらのフロアモニターに
回帰する事が耳の保護にとって最良の選択である。
以上、1月7日のMotion Blueでのライブに向けての
仕事をアーカイブとして記しておいた。
この記事がイヤモニの正しい知識、
ライブステージでの新しい音環境の必要性、
それを採用できる能力をもった音楽家の育成に
つながるものとなることを願ってやまない。